Fahrenheit -華氏-
「お前だけいい思いさせるかよ」
しれっとして裕二はビールのジョッキに口を付けた。
くっそう。
情報の出所は佐々木だ。間違いねぇ。
佐々木は俺たちが賭けをしていることなんてこれっぽちも気づいてねぇだろうから、呑気にこぼしてしまったんだろう。
大体佐々木、お前だって柏木さん狙いだろ!
ライバル増やしてどうする!
だが、しっかり落ち着いてる裕二を今更追い出すわけには行かないし、このメンバーで飲み会をするしかないのかぁ。
仕方なしに俺は靴を脱いだ。
すぐ近くに柏木さんの華奢なパンプスがある。
10cm近くもあるピンヒールで、白い靴だった。
ちっせー足。
そう言えば身長もあまり高くなさそうだ。
そんなことを思いながら、俺はテーブルの前に立った。
「佐々木、席代われ」
「ぇえ!何でですか」
「いいから代われ。俺は今機嫌が悪いんだよ」
上司としての権限を振りかざし、俺は嫌がる佐々木を隅に追いやり無理やり柏木さんの隣に腰を降ろした。
我ながら子供っぽい……
なんて思ったけど、手段を選んでられるかっ。
何と言っても柏木さんの前には強敵、裕二が陣取ってるわけだから。