Fahrenheit -華氏-
「オ…オーランド・ブルームに似てるね♪」
気を取り直して、俺は柏木さんに無理やり笑いかけた。
柏木さんは眉を顰めると、
「そうですか?」とあからさまに表情を曇らせた。「あんなのと一緒にされたらオーランドが可哀想」
あんなの?可哀想?
ひでぇ言われようだな。
俺は思わず苦笑した。
「柏木さんも元旦那も正装してるけど、これは何かのパーティー?」
「ええ。ヴァレンタインが主催の何だったかな…たぶん新規事業のパーティーだったと思います」
「へぇ。映画みたいだね。ホントにあるんだ」
俺は上の空で話を流した。
写真の中に二人に目が釘付けだった。
「それは離婚するちょっと前に撮ったものです。夫婦仲は冷え切っていて、あたしたちは仮面夫婦でした」
仮面……
そっか…だから柏木さん、どことなく楽しそうじゃなかったんだ…
写真を返そうとして、俺はふっと気付いた。
その夫婦の写真の下にもう一枚写真が重ねてある。
あれ?
俺はもう一枚を捲って見た。
大きなソファに腰掛けた、ヴァレンタイン夫婦の中央に小さな女の子が映っている。
マックス・ヴァレンタインはソファの背もたれに腕を乗せ、憎らしいほど長い脚をスマートに組んでいる。
柏木さんは上品に脚をナナメに揃え、女の子の両肩に手を置き、こちらに向かって微笑んでいた。
歳の頃は3~4歳だろうか。
まだ5歳まではいってないな。
可愛らしい子だった。
あれ?でも…この子……
どこかで見たような。