Fahrenheit -華氏-
「そんなこんなで半年以上もどちらが親権を取るかの争いがなされ、このままじゃ埒があかないと踏んだんでしょうね?向こうは……」
ちょっと遠い目で柏木さんが言葉を切った。
沈黙が降りてくる。
その続きの言葉を聞きたいが、俺は辛抱強く待つことにした。
出されたコーヒーに一口も口を付けてなかったことを思い出し、俺はカップに手を伸ばした。
すっかり冷めてぬるくなったコーヒーは、それでも深い苦味を宿していて、まるで俺の中にある感情そのものだった。
でも決してまずくはない。
どちらかと言うとさっぱりしたんだ。
ずっと引っかかってたことだから……
柏木さんが遠くを見ていた視線を俺の方へ引き戻した。
もう涙は溜まっていない。
代わりに、見たことのない憎しみの表情をゆらゆらと瞳に宿していた。
「あの人は……あたしに直接攻撃をしかけてきました」
「攻撃……?」
その言葉自体が酷く攻撃的だ。
彼女の口からそんな言葉が出てくるなんて思いも寄らなかった。
「あの人、ファーレンハイトの取引相手の殆どに圧力をかけて、うちと取引きできないよう計らったんです」