Fahrenheit -華氏-
それで……
俺は目を開いた。
複雑だった回路がようやく一つの線に繋がった。
ファーレンハイト社の突然の株価の下落。業績悪化。
でもそれは、とても悲しい事実だったんだ。
「会社は倒産寸前。そのとき持ちかけてきたのがM&Aでした。ヴァレンタインがファーレンハイトを救ってやる。多くの社員を救ってやる。
その代わり……」
娘を諦めろ……
そう言うことか。
何て…
何て卑劣な手を使ったんだ……
柏木さんの唯一の弱点を利用して、容赦なく畳み掛ける。
なんて冷酷的で、残忍なやり方。
柏木さんがヴァレンタインを憎む気持ち……今なら分かる……
「あたしに選択する余地はありませんでした。ここでファーレンハイトを諦めれば、多くの社員たちが路頭に迷う。
あちらではあなたが想像するより貧困の差が激しいのです。こちらよりも就職難なんです。
たくさんの家族を養っている社員もいます。
あたしは自分の娘を諦める他道がなかったのです―――」