Fahrenheit -華氏-
全てを話して、柏木さんはすっきりしたのか、ふぅと大きなため息を吐いた。
俺は……
知らなかったとは言え、心無い一言で随分柏木さんを傷つけてきたと思う。
俺は…
彼女の隣に居る資格なんてないんじゃないか……
いいや。そんなの言い訳だ。
彼女の過去に触れて、知ってしまったから今更ながら足踏みしてるんだ。
情けないな…
こんなんじゃマックスと同じじゃないか。
男を信じられない柏木さんに唯一してあげられること……それは無限の愛で彼女を包むことにあるんじゃないか。
そう
ボディーガードのティムのように強くない。マックスにも面(ツラ)で負けている。
でも俺が唯一勝てるもの……
それは彼女を想う、誰にも負けない気持ちじゃないか。
彼女の悲しみを受け止めてあげたい。
彼女の闇を晴らしてあげたい。
闇……
俺は柏木さんの方に体ごと向けると、彼女を真正面から見据えた。
「まだ……まだ、俺に話してないことあるよね?」
俺は柏木さんの腕をそっと取った。