Fahrenheit -華氏-
■Dark(闇)
柏木さんは俺の手の中でびくりと腕を強張らせた。
俺が握っているのは、以前柏木さんがガラスでケガをしたと言っていた場所のすぐ上。
柏木さんは困ったように眉を寄せた。
不安定に揺れる瞳で俺を見て、そしてすぐに逸らそうとする。
「目を……逸らさないで…」
俺はもう一方の手で柏木さんの頬を包み、正面を向かせた。
俺は彼女の顔に顔を近づけると、目を逸らせない位置でぐっと彼女を見つめた。
「このケガは自分でやったものでしょう―――?」
俺の質問に柏木さんがびくりと肩を揺らし、大きく目をみはった。
黒い瞳の奥で、不安定な光がゆらゆら揺れている。
「……あたし……あたし…」
大きく深呼吸して、肩を揺らした。
呼吸が荒いのは、風邪のせいじゃないだろう。
気持ちが酷く不安定で過呼吸を起こしかけている。
俺は彼女をそっと抱き寄せて、自分の胸に掻き抱いた。
「大丈夫………大丈夫だ……」
彼女の背中を優しく叩くと、柏木さんは安心したように吐息を漏らした。