Fahrenheit -華氏-
俺はあの日……
月が綺麗だとメールした日…
柏木さんの疲れた横顔を思い出して、ほとんど思いつきで、ふっとメールした。
メールして良かった……
柏木さんは死ぬ気がないと言ったけど、一歩間違えれば死に繋がっていたかもしれない。
もしあの場でメールしていなかったら、柏木さんは今ここにこうして居ないかもしれない。
柏木さんが死へ誘われるのを、俺は引き止められた………?
でもどうして……
「どうして死ぬつもりがないのに、自分を傷つけるの?」
「…………」
俺の問いに柏木さんが口を噤んだ。
「……女の子なのに、傷が残るよ……」
柏木さんのご両親だって、友達だって悲しむに決まってる。
そう続けて、俺は彼女の背中に回した手に力を入れた。
怒っている、と言った感じでちょっと強く抱きしめる。
どんなことがあっても自分を傷つけちゃだめだ―――
どんなことがあっても……
「これぐらいじゃ傷は残りませんよ。
そうですね、何故傷つけるのかという質問ですが。
心が―――
心がこれ以上傷つかないように、体に傷をつけるんでしょうね―――」