Fahrenheit -華氏-


また傷つくかもしれない…


今度はもう立ち直れないかもしれない…


そんな計算が彼女の中にあるようだった。


忙しなく瞳が動いて、動揺を押し隠せないでいるようだった。




でも



心配しないで。



俺は絶対柏木さんを裏切らない。


君を悲しませない。






だから俺の手をとって。





そんなことを思って彼女の手をぎゅっと握った。


みっともないくらい、その手は震えていた。


これじゃ支えるどころか、逆に俺が支えを求めているようだ。


だけど


俺の気持ちが、言葉が彼女に届けばいい―――


そんな願いを込めて、俺は必死に繋いだ手を握っていた。







「この病気と一年も闘っています。


だからあたしは今更支えてください、なんて思いません」







俺の言葉は―――




彼女に届かなかった。










< 521 / 697 >

この作品をシェア

pagetop