Fahrenheit -華氏-
また傷つくかもしれない…
今度はもう立ち直れないかもしれない…
そんな計算が彼女の中にあるようだった。
忙しなく瞳が動いて、動揺を押し隠せないでいるようだった。
でも
心配しないで。
俺は絶対柏木さんを裏切らない。
君を悲しませない。
だから俺の手をとって。
そんなことを思って彼女の手をぎゅっと握った。
みっともないくらい、その手は震えていた。
これじゃ支えるどころか、逆に俺が支えを求めているようだ。
だけど
俺の気持ちが、言葉が彼女に届けばいい―――
そんな願いを込めて、俺は必死に繋いだ手を握っていた。
「この病気と一年も闘っています。
だからあたしは今更支えてください、なんて思いません」
俺の言葉は―――
彼女に届かなかった。