Fahrenheit -華氏-
長い……長いくちづけだった。
角度を変えて何度も唇を合わせる。
柏木さんの吐息は熱を帯びて熱かった。
唇が離れると、
「風邪…うつりますよ?」とちょっと困ったように笑う。
「いい。って言うか、柏木さんが治るならむしろうつってって感じ」
俺が真剣に言うと、柏木さんはちょっと眉を上げて
「それは困ります。仕事で部長が居ないと困りますから」
と嗜めるように言った。
……困る?かぁ??俺より柏木さんの方が全然頼りになると思うけど…
「部長は自分が思ってらっしゃるより、頼りがいがある方です。あなたがいらっしゃらないとあたしたちは困ります」
大真面目な柏木さんの言葉に、俺はちょっと表情を緩めた
柏木さんは
俺を男としても、上司としても必要してくれている。
その事実が嬉しくて―――
言葉に現せなかった。
もう一度柏木さんを抱きしめ、彼女の存在が夢じゃないか確かめるようにちょっと力を入れた。