Fahrenheit -華氏-
「とっても可愛い子で、撫で撫ですると喜ぶんです。お風呂も寝るときも一緒。チューもしてくれるんですよ。それにあたしが辛いとき、さりげなくあたしの近くに来てくれるんです」
と柏木さんはにこにこ。
え……風呂?ベッド??チュー!!?さりげなく近くって…
それって……
「ラブラブじゃないですかぁ。犬?猫?」
「猫かと思ってたら、犬でした」
「何ですか、それ」
香坂さんが思わず笑い声を上げる。
「でも、いいですよねぇペット。癒しですよね」
「ええ。とても」
柏木さんはにっこり返して、話は終わった。
二人で香坂さんを下のロビーまで送ると、エレベーターホールでエレベーターが来るのを待った。
「ねぇ柏木さん。俺は君のペットですか?」
まぁいいんだけどね。ペットでも。柏木さんの近くに居られれば。
隣の柏木さんは俺を見上げると、ちょっと薄い笑いを浮かべた。
丁度エレベーターが一階に到達して、重い扉が開くと柏木さんが乗り込んだ。
ポニーテールのさきっちょを跳ねさせ、エレベーターの中に消える。
「彼氏ですよ?」
開いたままの扉の中から、柏木さんの声がちょっと弾むようなリズムをつけて聞こえてきて、俺は思わず駆け寄った。