Fahrenheit -華氏-
まぁうまくいく行かないは本人の頑張り次第だ。
俺はあくまでお膳立てだけ。
「それで、だ。柏木さんも一緒に来てくれない??」
佐々木はともかく、緑川と飲み会なんてごめんだ!いくら瀬川が緑川狙いだと言っても、緑川が俺に何を仕掛けてくるか分かったもんじゃない!!
彼女に頼むのもかっこ悪いけど、純粋に柏木さんと一緒に居たいという思いもあった。
俺は両手を合わせると、拝む仕草をした。
「いやですよ」
なんて返事が返ってくると思ってたから、俺は目を瞑っていた。だけど、俺の意に反して、
「分かりました」
と珍しく素直な柏木さん。
「え?行ってくれるの?」
「…ええ。だって部長が瀬川さんにKTKの件頼み込んでくれたわけでしょう?瀬川さんにも、部長にも感謝ですから」
柏木さんはにっこり笑って、俺をちょっと覗きこむ。
「…とまぁ、それもありますけど。経理部には私より可愛くて若い女の子たちがいっぱいいますからね。ちょっと心配なんです」
柏木さんは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
か、柏木さんっ!!!それって嫉妬ですか??
きゃ~~~!!!
「そんな!!俺には柏木さん一筋だよっ!」
俺が勢い込んだと同時に、喫煙ルームの扉が開いて裕二がひょっこり顔を出した。
「う~っす」
「よっす」
俺はタバコを挟んだまま、軽く手を上げた。
「それでは私はこれで」
柏木さんは顔から笑顔を拭い去ると、何事もなかったかのように立ち上がり、灰皿にタバコを押し付け、裕二に「お疲れさまです」と言い、ぺこりと一礼して出て行ってしまった。
ああ、柏木さ~ん…
俺は名残惜しそうに彼女の後姿を見送った。
柏木さんの姿が見えなくなると、裕二はすかさず俺の横に腰を落としてくる。
「なになに??キミたちいい感じじゃん♪何か進展あった??」
わくわくしたように目を輝かせ、裕二が俺の顔を覗き込んできた。