Fahrenheit -華氏-
「まぁ同期じゃねぇけど、マリちゃんを説得してくれたのは柏木さんだし、桐島も喜ぶんじゃね?」
「……そりゃそうだけど…」
まぁ柏木さんは経験があることだから、実際何を貰ったら嬉しいかとか分かるだろうけど。
子供を手放した柏木さんの…しかも不安定な精神状態では酷なんじゃないだろうか。
俺は少しでも柏木さんに負担をかけさせたくない。
もちろん裕二には彼女が結婚していたことや、子供を産んでいたこと、病気のことは話してはない。
「あー…まぁ聞いておくよ」
俺は曖昧に頷いて、頭を掻いた。
「なんだよ、えらく歯切れが悪いな。前ならどんなことでもチャンスだって食いついてきたのに」
「食いつくって…まぁそうだけど…あ!桐島で思い出した。店の予約…」
「店?予約??」
「うん。経理部の連中と飲み会する羽目になっちまってさぁ」
俺は緑川のミスから始まって、経理部部長とちょっと揉めたこと、瀬川に頼み込んでうまくやってもらったことをかいつまんで説明した。
「はぁ。お前も大変だな。んで?会社の店(チェーン店の居酒屋)でやる予定なのか?」
「まぁな。大人数だし、多少融通が利くだろ?」
「そうだな。でも緑川さんねぇ。あの子システムでも結構人気あるぜ?
俺はタイプじゃないけど。副社長令嬢ってことも、ポイント高いよな。
逆玉ってやつ?狙ってるやつ多いぜ?」
あははっと裕二は声をあげて笑った。
そして意味深に笑うと、俺の肩に腕を回してくる。
「啓人。乱れンなよ」
低く囁かれて、色んな意味でゾゾっとキタ。