Fahrenheit -華氏-
俺もじっと柏木さんを見返した。
俺はないって言ったのに、実は心の中で惹かれてたりして??
そんな期待に胸を膨らませ、俺は得意のスマイルで柏木さんを見つめていた。
これで落ちない女はいない。
……そう思ってたけど…
柏木さんはふっと視線を逸らした。
恥ずかしいから、とか照れてるとかそういう類いでないことは気付いた。
ひどく面倒くさそうだ。
「結婚生活なんて墓場……」
ぼそりと呟いた言葉を誰も聞いていなかった。
俺を除いては。
……って言うか、その台詞どっかで聞いたぞ?
あぁそうだ。
俺自身が言った言葉だ。
でも柏木さんの言葉は俺よりもずっと重みがあって、深い。
ナイフのように尖っていて、触れたらそこから血が出てきそうだった。
……そんな気がした。