Fahrenheit -華氏-
野球の試合があるときに、呼ばれると俺はいつも一人で向かう。まぁもちろん、向こうで仲良い人はたくさん居るけど。
だけど、年齢のせいもあってメンバーは大抵奥さんや子供を引き連れている。
俺より一歳若いメンバーの一人も、可愛い奥さんと可愛い息子連れだったことにはびっくりだった。
「啓人は彼女連れてこないのか~?」
なんていっつも聞かれるけど、スルー。彼女なんてそのときは居ませんでした。
でも、俺は柏木さんを連れて行きたい。
こんなに可愛い人が俺の彼女です。なんて言って自慢したい。
いや、待てよ!みんな下ネタ大好きなエロいおっさんばっかだから、柏木さんが引くかも…
と言っても、しばらく…2週間ぐらいは試合が入っていない。
俺としては何かと口実を見つけて、休みの日も柏木さんと会いたいんだけど……
「……部長…」
呼ばれて、俺ははっとなった。
柏木さんを見ると、彼女は顔にちょっと苦笑い。
「考えてること、全部口に出てます」
はっ!
俺は慌てて口を押さえた。
っても、もー遅いけど。
柏木さんはクスクス忍び笑いを漏らす。
「面白い人。別に口実なんてなくたって、会えるじゃないですか。
あたしたち恋人どうしなんだし」
長い睫を上下させながら、ゆらゆらと笑う柏木さんにキュンと心臓が音を立てた。