Fahrenheit -華氏-
「ねね、柏木さんってどんな男がタイプ?」
柏木さんの墓場発言を聞いていなかった裕二が能天気に身を乗り出して聞いてきた。
裕二……こいつ、本気で落としにかかる気だな。
させるかっての。
「柏木さんドリンクお代わりは?」
俺は柏木さんと裕二の前を横切るように、わざと二人の間に手を伸ばし、メニュー表を取った。
「そうですね…」
案の定、柏木さんの注意はメニュー表に移っている。
ふふん。
お前の好きなようにはさせないぜ?
俺は口元を歪めて笑いながら斜交いの裕二を見た。
裕二は口には出さないものの、口元を曲げて「くっそー」と言いたそうにしている。
「ビールにします」メニュー表をパタンと閉じ、「部長はどうされます?」と聞いてきた。
よし!柏木さんの注意が完全に俺に来た。
俺はちょっと身を捩ると、柏木さんの肩に身を寄せた。
「そうだな~」
柏木さんの華奢な肩と俺の肩が触れ合う。
柏木さんはゆっくりと顔を上げると、俺をちょっと見たが嫌そうにはしていないし、体をずらすこともしなかった。
よし!
「啓人、てめぇ」
小さな声で裕二が俺を睨んでいた。
ふふん。何の為に俺がここに来たと思ってる。
俺はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
ぐいっ!
ふいに反対側の隣から腕を強く引っ張られ、俺は柏木さんから引き離された。