Fahrenheit -華氏-
図星だった…
緑川の一言、一言が。
ただ一つ、難しくて手に入れにくい柏木さんのことが気になってる。と言ったことだけを外しては。
いや…少し前の俺ならばそうだった。だから間違ってはいない……か。
緑川は何も知らずフワフワしてぼんやりしてる女じゃかった。
と言うか…柏木さんとのことをうまく否定しなければ…
それに騙すって何!?隠してるだけで、俺は誰も騙してるつもりなんてねぇよ!!
「鋭い観察力だ。あっぱれ、とも言える。俺は君を買い被っていたかもしれない。
でも柏木さんは俺の彼女じゃないよ。俺の彼女は社外の人。あの人は…まぁ美人だし最初は気になってたけどそれまで。大体現実主義者のあの人が愛とか恋とか語るタイプ?まぁ俺もだけど」
結婚式のスピーチを聞いたと緑川は言っていた。
だからこの言葉はこいつを納得させるのに充分だ。
「だけどそこまで俺のこと分かってるんなら、もういやになったろ?」
「いいえぇ。あたしの気持ちに変わりなんてありませんよ。でもなんだぁ、柏木補佐じゃなかったんだぁ。一発で分かったんだけどなぁ?あたしの勘が外れたのかぁ」
俺はちょっと面食らった。
緑川の意図してることが全く分からない。ある意味柏木さんより難しいかも。
「作戦変更です。ここまであなたのこと調べつくしたあたしの前で、仮面を被る必要はありませんよ?だからすごく楽だと思うんです」
調べた…かぁ。ここ最近大人しかったもんな。緑川は彼女なりに色々と出方を伺っていたようだ。
「だから君に寄りかかれって?冗談じゃない。君のリサーチ不足だ。俺は仕事をおろそかにする女は嫌いだ」
緑川が俺の言葉にひるんだように、言葉を飲み込んだ。
そして額を覆うと、緑川は表情を歪めた。
「やっぱり…。やっぱりあたしは柏木補佐に適わないんだ…どうして男はみんなああゆうタイプが好きなんですかね」
「好きとか嫌いの問題以前の問題だろ?そう言うことはやることやってから言いましょうね」
俺は皮肉たっぷりに言ってやると、緑川はとうとう、すんと鼻を鳴らした。