Fahrenheit -華氏-


マッサージを終え、俺たちは六本木ヒルズの蕎麦屋に落ち着くことになった。


蕎麦は柏木さんご所望だ。


「でも何で足ツボマッサージ…?」


出された温かいお茶をすすりながらも俺はやっぱり疑問だった。


女の子って確かに、そういうリラックスできるところ好きだろうけど、若い女の子がデートに選ぶ場所じゃない気がしたんだ。


向かいの席で同じように茶をすすっていた柏木さんが目だけを上げた。


「部長が疲れていそうだったから…」


「へ?そんな風に見えた?」


まぁ疲れてはいるけど…あからさまに疲労を滲ませていたわけじゃないし、元気を振舞ってたつもりだ。


「湿布…」


そう言われて、ドキン!と心臓が跳ねた。


「湿布、貼ってらっしゃったでしょ?」


た、確かに……ここ最近腰の調子がよろしくなくて、冷湿布のお世話になっていたが…
(あ、でも今日はさすがに貼ってないよ)


な、何故わかった!!?


「分かりますよ。あたし鼻はいいんです。ファーレンハイトに混じって湿布の匂いがしたんで、疲れてらっしゃるのかな…て思いまして。あたしの思い違いでした?」


「い、いやぁ…」


俺は曖昧に笑って、ごまかした。


かっこわるぅ。


でもでも!


俺を気遣って、連れて行ってくれたってこと??


どんなスマートなデートよりも、どんなに夢中になれることよりも、この心遣いが嬉しかった。



やっぱ柏木さん優しいぃ!!!










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