Fahrenheit -華氏-
俺が頼んだ天ざると、柏木さんが頼んだ山菜蕎麦が運ばれてきて、俺たちはそれぞれ箸を割った。
「部長の天ぷらもおいしそうですね」
「柏木さんの山菜蕎麦も旨そう。あとで取替えっこしない?」
「いいですね」
…………
な…なんか違う。
恋人同士ってもっとこう!打ち解けてるもんじゃない!?何で俺たちって他人行儀なの!?
俺は蕎麦をすすりながらちろりと柏木さんを見た。
柏木さんは黙々と蕎麦をすすっている。「おいしい」と言って口元をほころばす柏木さん。
う~ん…わるかないんだけど……
こほん
俺はわざとらしく空咳をして、口を開いた。
「る、瑠華さん……」
柏木さんは箸を止めて、目だけをあげた。
「はい」
「瑠華ちゃん」
「はい」
「…………瑠華……って呼んでいい?」
柏木さんは完全に箸を箸置きに置くと、じっと俺を見据えてきた。
ドキドキと心臓の音が早まる。
何で俺……好きな女の名前呼ぶのにこんなに緊張してんの!!
ってかもっと、俺もっとスマートじゃなかった??