Fahrenheit -華氏-
ふらふらショッピングしたり、お茶をしたりであっという間に18時になり、何となく流れで、俺は彼女を乗せ自分のマンションに向かった。
都営浅草線、高輪台とJR品川駅の丁度まんなかぐらいにマンションはある。
駐車場に車を入れ、瑠華のボストンバッグを持ちながら俺は彼女をエントランスへ案内した。きれいに磨かれた天然石の通路の両脇には手入れの行き届いた緑の木々が生い茂っている。
12階建てで1フロアに2戸が入る6階、601号室が俺が間借りしている部屋だ。2LDKでお値段¥250,000ってとこだ。
「綺麗なマンションですね」
瑠華が物珍しそうにキョロキョロ目を動かしている。
「いやいや。君のところほどでもないよ」
苦笑しながら鍵を開けると、落ち着いたグレーの扉をゆっくり開けた。
思えば俺が自分の部屋に女を呼んだのはこれが初めてで。
呼んだのは俺の方なのに、何故か俺が緊張している。
「どーぞ」
瑠華を促すと、彼女はおずおずと遠慮がちに玄関に足を踏み入れた。
入ってすぐ目の前に廊下があり、その左にはトイレが、奥には12畳のリビングダイニングキッチンになっている。
「綺麗にしてるんですね。意外…」
綺麗にしました。何せあなたを呼ぶわけだから。
そんなことを思いながら苦笑して、俺は彼女をリビングのソファに座らせた。
「何か飲む?コーヒーでも…」俺がキッチンに向かうと、瑠華はいつの間にか移動していて、テレビ台の下を覗き込んでいた。
「何してるんスか?」
「いえ…怪しいビデオとか置いてないのかなぁって思いまして」
「置いてありませんよ?」
全部処分しましたから…
気を取り直して、冷蔵庫の中を覗き込んでいると、
「あ!」と突如瑠華が声を上げた。
ギクギクゥ!
俺はわけもわからず緊張を覚えた。