Fahrenheit -華氏-
「な、何?」恐る恐るキッチンカウンターから覗き込むと、瑠華は黄色いひよこのぬいぐるみを手にしていた。
確か、去年会社の忘年会のビンゴゲームで当たったぬいぐるみだ。
何となく置きっぱなしにしてあった。
なんだ…ぬいぐるみかぁ。
ほっと安堵のため息が出る。
「ピヨコだぁ」瑠華は嬉しそうに言うと、ぬいぐるみをちょっと持ち上げた。
「ピヨコ?」勝手に名前つけてるし…
ってか、ちょっと可愛いし♪
「気に入ったらあげるよ」
「ホントに??」瑠華は顔をあげると、嬉しそうに笑った。
きゅ~ん!
ふっ…あばよ、ピヨコ!瑠華んちで可愛がってもらいな。
あ!でもでも…瑠華は見た目に寄らず激しい女だからな…
俺と喧嘩した日にゃ、八つ当たりで、八つ裂きにされるかも!
俺は瑠華が目を吊り上げて、ピヨコの中の綿をむしり出しているところを想像して顔色を変えた。
「また百面相…何を考えてるんですか?」
すぐ近くで瑠華の声がして、俺は飛び上がりそうになった。
瑠華はいつの間にかデニムのジャケットを脱いでいて、黒いノースリーブのワンピ姿だった。
ぉお!白い腕が眩しぃ……!じゃなくて、
「ごめん、部屋の中暑かった?」
俺は一言言って、ローテーブルまで歩いていった。