Fahrenheit -華氏-
下卑たことを想像してすみませんでした。
俺は心の中で謝った。
「パトロンかぁ。まぁでもそれが一番妥当ですよね。でもあたし言いませんでしたっけ?自分で買いましたって」
「え?そーだっけ……」
確かに聞いたけど、いまいち信じられなかったんだよねぇ。
「約1億2,000万……」
瑠華は前触れもなく唐突に数字を述べた。
その数字が何を意味してるのか、最初ピンとこなくて俺はまぬけにも「え?」と問い返した。
「あのマンションの購入費用ですよ。マンション自体は1億ちょっとでしたけどもろもろ諸費用を合わせまして約1億2,000万円でしたね」
「へ、へぇ…」
桁違いだな。
とてもじゃないが、俺は手に出せん…
まるで雲の上の世界だ。
「親権争いが終わると、あの人…元夫は慰謝料という名のお金をあたしに渡してきました。ちょっとは自分が悪いと思ったんですかね?」
瑠華はちょっと自嘲じみて笑った。
でも俺はちっとも笑えなかった。
瑠華の乾いた笑い声は、暗い室内に響くことなくどこかへ消えていった。
「慰謝料の額は……はっきりとは言えませんが、あのマンションを買ってもだいぶ余るぐらいです」
「さすがヴァレンタイン…」
「あたしはお金なんか…マンションなんかより、娘が欲しかった……大金を貰っても虚しさが募るばかり。だから、腹いせにマンションを買ってやった。車も買った。
でも、使い切れなくて…」
一体幾ら渡したんだよ。マックスは……
「お金が全て型がつくと思ったら大間違い。
だからあたしはお金持ちの人が嫌いなんです」