Fahrenheit -華氏-
俺も瑠華も知っているから。
誰かの代わりなんて誰もなれないことを―――
その存在は唯一無二のものだから。
一時の感情だけで、俺はマックスを超えたいとは思わない。
瑠華もそれを望んではいない。
瑠華自身がそれを受け入れて、一歩以上の何かを踏み越えないといけないのだ。
「瑠華
愛してるよ。
愛してる」
甘い言葉を囁いて、俺は彼女の髪を何度も撫でた。
俺にはそうすることしかできなかった。
言葉には魂が宿る。それが言霊だ。俺の言葉は生きて、彼女の心の中に届けばいい。
甘い睦言は静かな寝室に響くことなく、それでもいつまでも留まっているように俺は繰り返し、繰り返し囁いた。
瑠華が俺の腕の中で静かに涙を流していたのが分かった。
「啓―――
あたしもよ。
あたしも
好き」