Fahrenheit -華氏-
愛なんて意味も知らなかった。
恋愛映画を見ても感動はするが、共感はできなかった。
好きな気持ちが理解できなかった。
だけど俺は
26になってようやく―――
ようやくその意味を知ることが出来たんだ。
そして「好き」と返してくれることの喜びを―――知ることができた。
それは映画や小説のように心躍ることでもなく、世界がきらきらして見えるほど楽しいことでもなく
本当はとても
苦しいということ。
手に入れると、いつでもそれは簡単に俺の手の中からすり抜けて行きそうになる。
俺は必死にそれを手繰り寄せる。
それでも俺は瑠華を愛さずには居られない。
求めずには居られないんだ。
「手を………離さないで。絶対に」
彼女はそう言って俺の手を握ってきた。
俺は頷いて、俺たちはその晩手を繋いだまま眠った。
眠りに落ちる瞬間、
彼女は柔らかく笑った。
「また明日ね。おやすみ」
それは明日も続く、確実な未来。
繋いだ指先が熱を持ったように熱かった。