Fahrenheit -華氏-


短い休みはあっという間だった。


日曜日、昼まで俺達は眠っていた。


何でかな…瑠華と居ると俺はよく眠れる。瑠華も同じようなことを言って笑っていた。


「睡眠薬を飲まなくてもぐっすり眠れるんです。啓はマイナスイオンが出てるんじゃないかしら?」


「俺はパワースポット?」


「ううん、ドライヤー」


そんなくだならない会話で笑いあい、瑠華の用意してくれた簡単な昼食を食べ、映画を見て夜になると彼女を六本木のマンションに帰した。


離れがたかったけど、一日泊まりにきて彼女の方も疲れているだろうから。


「今日は……ありがとうございました。また泊まりに行っても?」


遠慮がちに言う瑠華に俺は笑いかけた。


「俺はいつでもウェルカムだ。待ってる」そう言って瑠華の頭を無造作に撫でる。


「No No No!Welcom」瑠華はおどけて指を振り、発音を直されて、俺はちょっと笑った。


「Welcom?」


「Yeah!(ええ)」


瑠華はくすぐったそうにちょっと笑い、背伸びをした。


「おやすみなさい。また明日」


俺の頬に軽くキスを交わす。


「また明日」


俺は彼女の唇にキスを返した。


「それじゃ…」


いつまでも名残惜しそうにしてるのは、引き際が悪い。


俺は無理やり笑顔を作って、彼女に背を向けた。


「気をつけて…」


そう言い置いて、扉が閉まろうとする。


少しだけ振り返る。


瑠華の白い横顔がドアの隙間から見えた。





「瑠華―――!!!」








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