Fahrenheit -華氏-
瑠華はびっくりしたように、扉を開け俺を見上げてきた。
「どうしました?忘れ物?」
「言い……忘れたことがあって」
俺は完全に開け切っていない扉に腕を滑り込ませ、扉の上部に手をついた。
扉を閉められないように。
「君は……
独りじゃない。
俺が居る。俺が居るからっ!!」
びっくりしたように瑠華が目を開いて、まばたきをする。
長い睫が上下して、白い頬に影を落としていた。
やがてちょっと目を伏せると、口元に微笑を浮かべた。
「辛いときは…あなたを思い出します。あなたの体温、あなたの香り……」
「もっと簡単な方法があるよ?」
瑠華が首を傾ける。
「電話するんだ。“会いたい、声が聞きたい、抱きしめて欲しい”って」
俺の言葉に、瑠華は「そうだった」と言ってちょっと笑った。
「そう言ってくれたら、俺は可能な限り駆けつける。君を独りにさせない。君を孤独から守ってみせる」
俺の言葉を―――瑠華は笑顔で受け入れてくれた。
「ありがとう」
パズルのピースが一つ一つ画を成していく。それは明日に続く未来という画。