Fahrenheit -華氏-


電話を取ったのは佐々木で、「あ、おはようございます。―――え?……そうですか。分かりました」と二、三受け答えし、最後には「お大事にしてください」と言い置いて電話を切った。


「緑川さんです。今日風邪を引いて熱があるので、お休みしますとのことでした」


緑川が病欠!


なんてこった!!こんな幸せな日があっていいの!!?


俺は万歳をしたい気持ちになった。



月曜日の定例会議も、その後の打ち合わせも、その後の事務作業も何だか妙にはかどった。


緑川が居ないだけで、こんなにもはかどるもんなんだな。


「部長、調子良さそうですね」と佐々木。


「ホントに。分かりやすい人……」と瑠華。


何とでも言ってくれ。


俺は最高に今平和なんだ!


「大津食品産業さんのところに打ち合わせ行ってきま~す♪」


俺はうきうきした足取りで会社を出た。


ご機嫌で、中目黒にある大津食品産業に向かう途中、山手通りを車で北上して信号で停まっていると、角のコンビニからカップルが出てきた。


仲良さそうに手を繋いで。


何気なく目に留まって、ちょっと目を凝らしてカップルを見ると―――



んゲ!!




なんとっ!!女の方は緑川だった!






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