Fahrenheit -華氏-


平和な一日はあっという間に過ぎ去り、また緑川に手をこまねく日々がやってきた。


「おはようございます…」


と登場した緑川は、いつもより元気がなかった。


「おはよう。風邪は大丈夫?」


俺は嫌味たっぷりで言ってやった。


「……はい。昨日はすみませんでした」と素直に頭を下げる緑川。


あまりの素直さに、俺の方がびっくり。


「…いや、良くなったらそれでいいんだけど…」


「…ありがとうございます」しおらしく頷いて、椅子に腰掛ける緑川。


なぁんか調子狂うな。


午前中、緑川は俺や瑠華の頼んだ仕事をのろのろと、だが慎重な手付きで執り行っていた。


今のところ目立ったミスもない。


ホントに…どうしたって言うんだ??


そんなことを思いながらも、あっという間に時間が過ぎ、昼になった。


先に休憩に入った瑠華と佐々木が戻ってきて、俺と緑川と交代。な筈だけど、俺はいつも30分ほど緑川と時間をずらす。


一緒に入ると「ランチ一緒にどうですか~♪」なんてまとわりつかれるからだ。


緑川が昼休憩に入って20分が立った頃、腕時計を見て「そろそろかな?」と俺も席を立った。


「柏木さんは今日どこに行ってたの?やっぱ社食?」


何とかして瑠華と喋りたい俺は、無理やり話題を作っては話しかける。


「いえ。佐々木さんとバラキエルに。ランチがおいしいんですよ。まだ間に合うかも…」


なぬ!?佐々木と一緒!!


俺は思わず佐々木を睨んだ。


佐々木はいたずらっ子のようにちょっと笑った。


くっそー!!俺だって瑠華とランチしたいってのに!


っても、あんま一緒に居ても怪しまれるしなぁ。




俺はがくりと肩をうな垂れて、フロアを出た。





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