Fahrenheit -華氏-


午後2:30―――


ランチなんてやってるのだろうか…そう思いながらも、足はバラキエルに。


瑠華と待ち合わせるときにしか、利用したことのないカフェ。(しかも俺はもっぱら後から入るだけ)


確か…堕天使の名前だとか何とか言ってたよな…


小洒落た名前を思いつくものだ。


そんなことを思いながら俺は“Barakiel”と書かれたドアを開けた。


入ってすぐにカウンターがあり、 (どうやらセルフサービスのようだ)海老とトマトのバゲット風サンドイッチのランチを注文してトレーを受け取り、席を探している途中で固まった。


「あ、お疲れ様です」と奥まった席で緑川が顔をあげたからだ。


な、何故居る―――!!


「偶然ですね。部長もお昼休憩ですか?あ、ここどぉぞ」と二人掛けのテーブルの向かい側を手で差し示す。


「あ、俺。喫煙だから」俺は苦笑いして、ガラスの壁で仕切られてる喫煙スペースを指で指した。


「じゃ、あたしも移動しますよ」と言って、同じランチの乗ったトレーを軽く持ち上げる。


うまく断る理由が見つからなかった俺は、緑川と一緒に喫煙席に落ち着く羽目になった。


ランチをすでに食べ終えていた緑川は、オレンジジュースをストローで飲みながら、


「ここ、煙いですね」なんて文句を垂れている。


じゃぁついてくんなよ!って思わず言いたくなる。


俺は無言でサンドイッチを口に入れた。


(たぶん旨いのだろうけど)俺には旨いかどうかなんて分からなかった。


もそもそとサンドイッチを食っている最中、緑川はあれこれと喋りかけてくる。


今日も柏木補佐に怒られたとか、総務のお局さまがガミガミうるさい、だとか。


愚痴ばっかり。



いいかげんうんざりして、俺はついつい言ってしまった。






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