Fahrenheit -華氏-
「……あの、部長は元カノとかに連絡することってあるんですか?」
何だ?
そんな問いかけじゃ、昨日の男は元カレだって告白してるもんじゃねぇか。
ふーん…そういうことね…
「俺はないよ。別れたら速攻連絡先消去する派だから。その後も一切連絡取らない」
「…部長は、そうですよね。じゃぁもし。もしですよ?元カノに連絡取るときはどうゆうときですか?」
うーん…
俺はちゃんと付き合った女が少ないし、別れた女と連絡とりたい、会いたいなんて思ったことないから…わかんねぇな。
って、何で真面目に考えてるの、俺!
「そんなんヤりたいからに決まってるからじゃね?」
適当に…だけど、たぶんこれが一番的を射ていると思う。
男なんて所詮はそういう生き物だ。
「やり直したいとか…そう思うことは?」
「そのつもりだったら、必死にそう伝えるよ、電話の時点で」現にマックスがそうだ。
あいつも必死に瑠華に言ってたっけ?瑠華は取り合ってなかったけど…
「ただ会いたい。会ってもこれと言った気持ちを伝えない。それだったらやっぱヤりたいだけじゃね?」
俺の言葉を聞いて、緑川は俯いた。
マスカラで伸ばした睫が僅かに震えている。
「……やっぱり……そうなのかな…」
俺はサンドイッチを頬張る口をちょっと止めた。緑川を真正面からじっと見据える。
俯いたままの緑川から何かの感情を読み取ることはできなかったけど、
彼女の白い顔は
その元カレのことを忘れられない―――と物語っていた。