Fahrenheit -華氏-
わっかんねぇなー……
何で忘れられない男が居るのに、俺にモーションかけてくんだ?
緑川の気持ちが分からなくて、でも分かりたいとも思わず。
それでも、もやもやと何かを胸につっかえて俺は社に戻った。
俺より早く戻っていた緑川は、真面目に仕事をしている―――ように見えた。
でも心ここにあらずと言った感じだ。
俺はちらりと瑠華を見た。
彼女も相変わらず淡々と仕事をこなしている。
元夫から復縁を迫られ―――それでも頑なにそれを受け入れなかった瑠華。
元カレから連絡が来て、あきらかに理由は分かっていてもそれを拒めない緑川。
女はどうして前の恋愛に縛られるのだろう。
いや、女だけじゃないな。
きっと男もだ。
現に桐島だって別れたマリちゃんを忘れられなかった。
どうして悩むのか―――
多かれ少なかれ、そこに愛情(もしくは憎しみ)が存在するからだ。
俺も、もし…
もしもだよ…絶対ないと言い切りたいけど、瑠華と別れるようなことがあったら
同じように悩むのかなぁ。