Fahrenheit -華氏-
瑠華は特別タピオカが好きってわけじゃないだろう。
でも気になりだしたら、とことん追求したくなるのは、性格だろうな。
20分程経って、桐島はまたテーブルに戻ってきた。
薄いピンク色をした透明の飲み物を瑠華に手渡し、そして彼女に顔を近づけるとこそっと何かを耳打ちした。
てめ!桐島!!瑠華に近づくんじゃねぇ!!
と思っていた矢先、彼女が俺の方を向いた。
ほんのちょっと目を開いて、でも嬉しそうに微笑を湛えている。
キュ~ン!
差し入れ効果はバッチリだったようだ♪
「あ~ん、桐島主事って結婚しちゃったんだよね~」と残念そうな女の子たちの声が聞こえて、俺は我に返った。
「桐島って人気あるの?」俺は何気に聞いた。
「そりゃありますよぅ。って言うか、部長世代の同期がハイレベルすぎるんです」
「麻野主任といい、桐島主事といい…何気に木下リーダーも美人だし。やっぱ美形が勝ち残るんですかね~」
「顔の造形は関係ないと思うけど…」
「それ、部長が言う!」説得力な~い!と言いながら、キャハハと黄色い声を上げて女の子たちは笑った。
うんざりしながらも、俺は桐島の置いていった焼酎に手を伸ばした。
こうなったら飲もう。
ロックにしたかったけど、桐島あいつ氷置いてってないじゃんかよ。
隅でまだ瑠華と話し込んでいる桐島を呼ぼうとして、俺は止めた。
桐島が瑠華に張り付いててくれれば、他の野郎が近づくこともない。
あいつは防波堤だ。
店員を呼ぼうと、ベルスター(あの、ピンポーンとか鳴るやつね)を押そうと手を伸ばしかけ、その手に誰かの手が重なり、俺は顔を上げた。
「焼酎。おつくりしますよ?」
にっこり微笑みを投げかけてきたのは、
緑川だった。