Fahrenheit -華氏-


瑠華の右隣は空席になっている。


「あれ?ここに誰か居なかった?」と言いつつも、俺はつつつ…と瑠華の隣に移動した。


さながら忍者のように。


「高野さんはお手洗いです」


高野…あぁ経理の。


よし、高野!お前の席は俺が占領した!!ってなわけで特等席(俺が元居た場所)にどうぞ~


俺はご機嫌に瑠華を見た。


こんにちは、瑠華ちゃん☆なんちゃって♪


やっと……やっと瑠華の隣にたどり着けたぜ。


幸いにも佐々木はちょっと離れたところで、女の子一人と酒を呑んで楽しそうにしている。


俺とは反対側の隣には桐島。


桐島は俺の奇行に苦笑しながらも、黙って席を立ち上がった。


グッジョブ桐島!さんきゅ~な♪


「る…柏木さんは何飲んでるの?」俺は手元にあるタピオカの入ったグラスを見やった。


「ピーチツリーフィズ?タピオカ入りの。タピオカってよく見ると…」


「うん。気持ち悪いね。おたまじゃくしみたい」


俺の発言に瑠華はちょっと眉をしかめた。


何か……勝った??


それでも瑠華はめげずに太いストローに口を付けた。


「あ、飲むんだ」


「ええ。桐島さんが私のためにわざわざ作ってくれたみたいですから」


瑠華は流し目で俺をちょっと見る。


You lose!


はいはい、負けです。完敗です……


「ごめんなさい」


俺は大げさに眉を寄せて瑠華を見ると、彼女は「許してさしあげます」と言いちょっと笑った。




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