Fahrenheit -華氏-
あ~…やっぱいい!瑠華はいい!!
妙に感慨深くじーんとくる。
「強い酒が呑みたいな。できればゆっくり二人で」
ぼそりと呟いた声は、店の喧騒にかき消された。瑠華の耳に届かなくてもいい。ただの独り言だから。
だけど瑠華は
「ええ。私も」と小さく答えてくれた。ピーチツリーフィズのグラスをテーブルに置く。
「今の気分は、そうですね。カルバドスあたりかな?チョコレートなんかをおつまみにして」
ぅお!カルバドス!!また通なところを行きますね。
「このあとさ…」
言いかけたところで、
「部長~!急に居なくなっちゃったから葉月悲しいですぅ」と悪魔の声がすぐ近くで聞こえた。
気づいたらシロアリ緑川が、俺の隣に座ってやがる。
「はい♪焼酎。できましたよ♪」
「ど、どうも…」
にこにこして差し出すロックグラスを俺は受け取ろうとした。
その瞬間、緑川の手からロックグラスがぱっと離れる。
あ、と思った瞬間
バシャッ!俺の膝の辺りで焼酎が派手にこぼれた。
緑川~~~!!
「す!すみませぇん!!」
緑川が慌てて、おしぼりを探す。近くに居た社員たちも慌てている。瑠華も無言で近くにあるおしぼりを手に取った。
「…いや…大丈夫」と言いかけたが、緑川は俺の手を乱暴に掴んだ。
「洗面所行きましょう!染みになったら大変!!」