Fahrenheit -華氏-
「い、いやぁ。そんなことはないヨ。キミの見間違いじゃない?」
俺の声はみっともないぐらい引っくり返った。日本語も怪しい。
佐々木!何でこのタイミングで振り返るんだよ!!
「え…でも、僕この目でちゃんと見ましたよ」
と完全疑いモードの佐々木クンは、俺の否定の言葉も聞き入れてくれない。
むぅと顔をしかめている。
「部長は酔っ払ってるんですよ。とにかく女の人とスキンシップを図りたいみたいで」
なんて瑠華が、無表情に言い訳している。その顔はいつも通りだったので、言い訳もまるで本当のように聞こえる。
ってか、瑠華にとっては本当のことだったりして…
もしかして俺を酔っ払いのセクハラ上司だと思ってる!!?
No!!
「そう…ですかぁ。まぁ部長はとにかく女好きですから、柏木さんも気をつけてくださいね」とそれでも納得いってないような顔つきで佐々木は釘を刺す。
おい!瑠華の前で女好きとか言うなっ!!
そうこうしているうちに目的のカラオケボックスに到着してしまった。
多少待ったものの、十五分もするとすぐに部屋に案内された。
11人と言う人数だったが、通された部屋は10人用の部屋だったらしく、ちょっと狭いが入らないわけでもない。
瑠華の隣に座りたかったが、それを佐々木が阻んだ。
どうやら佐々木はさっきの手を繋いでいたシーンが相当堪えているみたいだ。
冗談と思っていないのがまざまざと分かった。
はぁ…次から次へと……
ま、手を繋いだのは俺が悪いんだけどね。
どうなるやら。