Fahrenheit -華氏-
俺と佐々木の歌に場は大盛り上がり。
もともと盛り上げることは苦手じゃない俺は、アドリブで歌詞を変えたりして。これがまた盛り上がった。
女の子だけじゃなく、野郎どもにも受けがよく場は一段と賑やかになり、気分よく歌を終えると、急に疲れがきた。
何故…?
何故なんだ?一曲歌っただけなのに、この疲労感は。
それは歳を取ったからですよ、啓人くん。なんて心の中で思わず突っ込みを入れる。
切実にタバコを吸いたくなって、俺はロビーに出た。
タバコぐらい部屋でも吸えるけど、狭い上に人数が多い。そんな中で煙をゆっくりと煙を吐くことを憚られ、ここに来たってわけだ。
タバコを吸い始めてすぐに、緑川が経理の女の子に支えられ、ぐったりとした様子でよろよろと歩いてきた。
びっくりするぐらい顔が真っ青だった。
「ど、どうした!?」
俺は目を開いて、二人に声を掛けると女の子の方が気の毒そうに俺を見てきた。
「緑川さん酔っちゃったみたいで、具合が悪いみたいです」
「そ、そうなの?水、貰おうか」
「いえ…大丈夫です……」
弱々しく答えた緑川は俺の座っているソファの端に力なく腰掛けた。
「しばらく休んでた方がいいよ」と親切な女の子。
「はい……すみません…」とぐったりとソファの背に頭を預ける。
そこへ瑠華が小走りにやってきた。顔には心配そうな表情を浮かべている。
「緑川さん、大丈夫ですか?」
「酔っちゃったみたいで」と女の子がさっき俺に説明したように、瑠華に言った。
「大丈夫ですか?水、貰ってきます?もう帰った方がいいかも」
「そうだな。送って行こうか…」
俺が緑川を覗き込むと、緑川はうつろな目で、
「大丈夫です」と返してきた。