Fahrenheit -華氏-


「ふぅん…」


何とも返しがたい言葉だ。


まぁ人の気持ちに永遠なんてないことだから、しょうがないっちゃしょうがないけど。


それでもこの言葉は俺にとっても戒めになる。


瑠華が俺といつまでも付き合っていてくれるわけではない、と。いつでも危機感を持っていないといけない、と。


「タケちゃん…彼とは、ミクシイで知り合ったんです。最初は気が合うから軽い気持ちで一度会ってみたら、楽しくて思った以上にいい人で」


「イケメンだったし?」


俺はわざとチャラけて言った。シリアスになると、どんどん暗い方向に行くから。


俺は緑川の暗い過去を共有したいわけじゃない。ただ話を聞くだけだ。


「ええ…まぁ」緑川は恥ずかしそうに額に手をやった。


「一ヶ月ぐらい何となく遊んで、その後告られて、あたしも好きだったからすぐにOKして付き合いが始まったんです」


出会いってのも色々あるもんだな。俺はブログも書いてなけりゃ、ほとんどインターネットを見ないから(見ても経済面と野球のページだけ)はっきりいってその心情とやらが分からない。


「あたしはタケちゃんのことが大好きで、この人と結婚したいって思って。この人しか居ないって思ってたんですけど、一年ぐらい経ったら、彼に好きな人ができたから別れて欲しいって言われて…」


「で、素直に別れたの?」


俺の言葉に緑川がすんと鼻を鳴らした。


「まぁ結果的には別れましたけど、別れたくないって縋りました」


あたしのどこがいけなかったの?


どこを直せばあなたは戻ってきてくれるの?


言ってよ。そうするから。


そう言っても、彼の心は戻ってきませんでした。


緑川は悲痛な面持ちで、そう続けた。



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