Fahrenheit -華氏-
短絡的といやぁ短絡的だけど。まぁそう思いたくなるのは分からないでもない。
別れた相手にとって最高の復讐は、そいつと別れて自分が幸せになることだ。
「…部長は、軽そうに見えるけど、本当に好きな人には一筋なんだなって思って……手に入れたくなった。どうしたらあたしのものになってくれるのか、あの手この手で考えたんですけど。
やっぱり一筋縄じゃいきませんね」
と緑川が苦笑を漏らす。ところが…
「……あたし何がいけないんだろう。あたしなんて、きっと誰にも愛されないんだ…この先結婚もできないかもしれない」
緑川は顔を覆って泣き出した。
「いやいや、そうじゃないと思うけど?」
俺は慌てて緑川を宥める。
お前のその貪欲とまで言えるその作戦に引っかかる奴だってきっといるだろう。
例えば瀬川とか?
ってそんなこと冷静に考えてる場合じゃないって。
何とか緑川を宥めようと、あれこれと考えていた。
緑川は涙の合間にひっくひっくとしゃくりあげると、
「あたし、この会社に入って割りとすぐにタケちゃんの番号を消したんです。もう惑わされるのもいやだったし、吹っ切るために。もちろんあたしが連絡しなければタケちゃんから連絡もなかったんです。
ところが二週間前…向こうからかかってきて…
見知らぬ番号を普段は出ないんですけど、何ていうかこのときピンときたんですよね。それで出たらやっぱりタケちゃんで…
初めてだったんです。別れてから向こうから会わないかって言われたの…」
と途切れ途切れに言った。
泣いている上、声が小さかったので俺は彼女の言葉を解読するのに一苦労だった。
「それで月曜日に…」
「…はい。いけないと思いつつもやっぱり嬉しくて……。それで別れて初めてあたし……タケちゃんと寝ました……」
俺は盛大にため息を吐いた。
ったく、ろくでもねぇな。
振り回す方もそうだが、振り回されるのも……だ。