Fahrenheit -華氏-
「何で……」
緑川の声がまたも抑揚のない声に逆戻りして、肩をうな垂れる。
「何でだろう…」
俺はちょっと笑った。そしてテーブルにゆっくりと頬杖をつく。
「そうだな。敢えて言うなら、君が本当のことを話してくれそうだったからかな?」
「…本当のこと?」
訝しげに眉を寄せると、緑川は淡いピンク色のスカートをぎゅっと握った。
後ろにひらひらした三段のレースが付いている、いかにも女の子っぽいスカートだ。
瑠華は絶対にはかなさそうなスカート。
「緑川さんさ、本当は俺のこと嫌いだろ―――?」
俺の問いかけに、緑川はびっくりしたように目を開き、唇を噛んだ。
「…え?嫌い……?そんなこと……」
こちらがびっくりしてしまうほど、視線はおどおどと泳いでいるし、スカートを掴んだ手にはぎゅっと力がこもっている。その動揺する様はとても演技には思えなかった。
きっと緑川自身気づいていない感情だったに違いない。
「君は俺に元カレを、そして柏木さんにその元カレを奪った女に、それぞれ影を重ねてるんじゃないか?」