Fahrenheit -華氏-
*謎多き女*
ドキリ
心臓が変な音を立てた。
あれ?何だこの変な感じ……
驚いて俺は心臓の辺りをぎゅっと握った。
もう一度柏木さんを見ると、彼女はもういつもの無表情でいた。
気のせい……
「ビールお待たせしました!」
店員がジョッキをいくつか盆に載せやってきた。
手際よくテーブルに置いて、機械的に会釈するとさっと立ち去っていった。
「部長、ビールですよ」
佐々木がテーブルの手前にあったジョッキを俺の前に置いてくれた。
「おうよっ」
結局……裕二、桐島の乱入や、まさかの大穴“佐々木”ご指名の件で親密になるどころか、ショックを受けてテンションが下がり気味。
こうなったらとことんまで飲んでやる。
そんでもって柏木さんを酔っ払わせて、ホテルにも連れ込んでやろう。
そんなイケナイ考えを抱いて、俺はぐいとビールを飲んだ。