Fahrenheit -華氏-
―――
―…
「瑠華!ごめん!!」
俺は目の前の瑠華に手を合わせ謝った。
瑠華は無表情に、「別にいいですよ」といつもの調子だ。
それにほっと安堵して、リビングに行くとソファに俺があげた筈のピヨコが転がっていた。
ぼろぼろになった黄色い胴体。シッポの先からちょっと綿が飛び出ている。
「ぎゃ~~!!ピヨコっ!!!」
――――
――…
自分の叫び声で、はっとなった。見慣れない車内であることに気づく。
「へっ?夢??」
「お客さん、だいぶお疲れのようですね」
タクシーのルームミラーの中で運転手のにやにやした視線と目が合った。
「…えぇ、まぁ」
………恥ずかしい。時間にしてほんの五分。俺はうたた寝していたようだ。
「それにしても酷い格好ですね。“これ”と喧嘩でもしたんですか?」
とタクシーのオヤジは小指を立てて、意味深に笑った。
「はは…」
「色男は大変ですなぁ」
はは……ってもう愛想笑いする気力も残されてねぇ。
六本木のマンションに到着するまで俺は眠ることを決意した。
もしかしたらもう一バトル(ガチで)あるかもしれない。
だから体力温存しておく必要がある。