Fahrenheit -華氏-
ガンっと足がドアで挟まれ「いって!」と俺は声を上げた。
瑠華がちょっとだけ扉を開ける。
「Kiss my ass.聞こえませんでした?」
瑠華がちょっと迷惑そうに顔をしかめた。
「意味が分からねぇよ」
必死の形相で言うと、瑠華はにこっと笑顔を浮かべ、首をちょっと傾けた。
キュン♪か…可愛い。
「“くたばれ”って意味ですよ」
か…可愛くない。ってか怖い。
『青コーナー!無敵のアイスクイーンるぅか かしわぎぃい!対する赤コーナー!!どMのダメダメ男ぉケイトぉ かんなぁ!』
カーンっ!!
ゴングが鳴る音がリアルに響いて、目の前がくらっと歪んだ。
「る…瑠華ちゃん…せめて話を……」
瑠華は俺をちょっと見上げると、ほんの僅か眉間に皺を寄せた。
「いいですよ」
『おおっと啓人選手!先手攻撃!!いきなり瑠華選手の間合いに入ったぁ』
「その格好でうろうろされたら、何言われるかわかったものじゃないですから」
『それを難なく交わす瑠華!!しかも啓人にいきなりのカウンターパンチ!!啓人かなりのダメージぃい!!』
うっせぇよ!!脳内実況中継っ!
俺は自分の考えを振り払うよう、頭を振った。