Fahrenheit -華氏-
*Side Ruka*
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啓をバスルームに追い立てて、あたしはため息を吐いた。
こんな態度取るつもりなかったのに…
可愛げのない自分にうんざりする。
だからあたしはうまく行かないのだ。
もっとかけるべき言葉はあった。もっと聞きたいことを素直に聞けば良かった。
頑ななあたしの態度に、啓が怒り出さなかったことが救いだ。
彼がシャワーを浴びている間に、何とか気持ちを落ち着かせなければ……
―――2時間前―――
カラオケがおひらきになると、あたしは啓の言う通り佐々木さんにタクシーで送ってもらった。
後部座席で佐々木さんと二人きり。
仕事場では二人きりなんてしょっちゅうなのに、そう言えばこういうプライベート…それも密室で二人なのは始めてだ。
佐々木さんは啓と違って、真面目だし言っちゃ悪いが気弱なタイプでそれが逆に安心。
万が一の間違いも起きなさそう。
広尾から六本木まですぐ近くだ。
啓もそこまで心配しなくても……と思うけど、反面あたしのことを心配してくれるのは素直に嬉しい。
窓の外の流れるテールランプの波をぼんやりと見つめていると、隣で佐々木さんがおずおずと口を開いた。
「あの……柏木さんと…部長と付き合ってるんですか?」
あたしはゆっくり振り向いた。