Fahrenheit -華氏-
■Tattoo(タトゥー)
宴会も一時間程過ぎたとき、
「ちょっと失礼します。お手洗いに」
と柏木さんが席を立ち上がった。
チャンス!俺も何気なく席を外してトイレの前で待ち伏せしてやろう。
腰を浮かせて立ち上がるときに、俺は柏木さんの背中をちらりと見た。
背中から腰にかけてのラインが細くて華奢で、女独特の色っぽいものだった。
俺は思わず見惚れた。
ちらりと前を見ると、裕二も同じところを見ている。
こいつめ……さすがタラシ。
俺と見る場所が一緒だぜ。
……と言うことは―――
俺と裕二は同じタイミングで顔を合わせた。
ガタタッ
派手な音を立てて、俺と裕二がほぼ同時に席を立ち上がる。
「ちょっと、どうしたんですか?」
佐々木がびっくりしたように俺たちを見上げた。
「「トイレ!」」
二人の声が揃って、俺たちは互いに顔を見合わせると、どっちが先かもつれるようにトイレに向かった。