Fahrenheit -華氏-
■Picture(写真)
二人で居るのに一人で入るバスルームは、まだまだ暑さが残る9月だというのに、どことなくひんやりと冷め切っていて、それが妙に寂しかった。
まるで俺と瑠華の関係を現しているようだ。
どうしたら、誤解を解けるだろう。
どうしたら瑠華のお怒りは冷めるのだろう。
一人で浴びるシャワーが何だか寂しくて早くあがりたかったけど、緑川とのことをどう説明するか色々考えたい。
俺の心は複雑だった。
まとまらない思考でうだうだと考えながらシャワーを浴び終えると、夜中の1時だった。
瑠華の用意してくれたバスローブに袖を通し、リビングに向かうと先ほど流れていた大音量のロミオとジュリエットは止んでいる。
瑠華は一人、ソファに横たわり、ひざ掛けを体の上に掛けピヨコを抱きしめたまま眠っていた。
疲れているのだろうか、瑠華は起きだしてくる気配がない。
起こしちゃ可哀想だと思ったが、このままソファで眠るわけにもいかない。
エアコンも効いているし、また風邪でも引いたら大変だ。
「瑠華…風邪引くよ?ベッド行こう…」
小さく揺すると、「ん……」と声を漏らし、瑠華がゆっくりと目を開いた。
ぼんやりとしたまなざしで俺を見ると、彼女は幸せそうにちょっと笑った。
……あ、ヤバイ…すっげぇ可愛いかも…
ってそんなこと思ってる場合じゃないな。
「風邪引くって」俺は苦笑しながら、瑠華の首に腕を入れ彼女を抱き起こした。
「寝に行く?」と俺の問いかけに、瑠華はゆるゆると首を横に振った。
「まだ寝ない」
のんびりと言うと、自力で起き上がる。
そこで始めて気づいた。瑠華が何か写真のようなものを握っていることに。