Fahrenheit -華氏-
写真は裏返しで、俺には映っている内容が分からなかった。
でも瑠華は大切そうに握っている。思い出を慈しむように。
「何が映ってるの?」
さりげなく隣に座って探るように目を上げると、瑠華はちょっと考えるように首を傾け、それから無表情に、
「昔の写真です。あたしの初恋の人が映ってるの」と言った。
なぬ!!初恋だとっ??
「どんな奴?」醜い嫉妬を押し隠し、俺は無理やり笑ってみせた。余裕ぶっこいて何でもないように言ったが、笑顔はどことなくぎこちなかった。
「どんなって…」言いかけて瑠華は俺を真正面から覗き込む。
顔を近づけられてドキっとした。
やっぱ超好み☆すっぴんでも!
俺の好きな顔に、瑠華はさらに俺の好きな笑顔を浮かべた。
直視できなくて、俺は思わず顔を両手で覆った。
「やきもちですか?」
「ま、まさか」
何でもない振りして否定したけど、思い切り図星。
瑠華に過去の男が居ようが気にしまいとしてたのに、いざ事実を突きつけられると思った以上に堪える。
情けない俺……
瑠華は写真をローテーブルの引き出しにしまった。結局中身は見せてくれない。
「あたしはやきもち焼いてますよ?緑川さんに」
瑠華はのんびり言って、おもむろに俺の膝の上に頭を乗せてきた。