Fahrenheit -華氏-
俺は緑川とのいきさつを洗いざらい喋った。
緑川の元カレとトイレ前で会ったことから始まって、緑川の過去、そして彼女の気持ちを洗いざらい全て。緑川を挑発してぶん殴られたことも。
だけどさすがに押し倒されて、襲われそうになったことを話すときは緊張して喉がカラカラになった。
テーブルにあった瑠華の飲みかけのウィスキーを貰う。
独特の樽の香りが鼻腔を刺激して、それで気分が幾分か落ち着いた。
「押し倒された!?」
あんまり物事に動じない瑠華も、このことを聞くとさすがにびっくりして目を丸めていた。
「そ。まぁハプニングだったけど」
「へぇ。で、どうしたんですか?」
冷ややかな声で瑠華は目を細めた。
「どうしたもこうしたも、ヤるわけないだろ?俺は瑠華一筋だ」
「……ふぅん。でもグラっときたんじゃないですか?」
瑠華がつまらさそうに唇を尖らせる。
あら?やきもち??
ちょっと嬉しいかも♪ってそんなこと言ってる場合じゃない。
「ぐらっともきてないよ。あいつの裸見ても欲情しん」
にべにもなく俺は言った。
どうやって逃げおおせたのかは―――瑠華には言わなかった。
言えるか!あんな恥ずかしいことっ!!
それより俺大丈夫か??あいつの生身の半裸を見ても反応しなかったって男としてヤバイんじゃないの??
まぁあのときはそれで良かったけど。
俺はちらりと瑠華の脚を見た。白くて大理石のようにすべすべしている。なんておいしそうな太もも。
なんとなく…そう、ホントに出来心で俺は瑠華のシャツの裾をぺらっとめくった。