Fahrenheit -華氏-
「電話を切ってごめんね。ちょうど緑川と言い合いしてた最中だったから」
俺の言葉に瑠華は悲しそうにちょっと笑い、俺のバスローブの裾を引っ張ると顔を隠した。
「信じてます。でも……
思ったより堪えてる……」
「ごめん………」
俺は瑠華の肩に手をやり、宥めるように撫で上げた。気休めにしかならないって分かっていたのに、それぐらいしかできることがなかった。
俺の手の下でほんのちょっと瑠華の肩が震えている気がした。
そうやってどれぐらい撫で上げていただろう。
ローブで顔を隠したまま、やがて小さく寝息が聞こえてきた。
俺は彼女を起こさないよう、そっと抱き上げるとそのまま寝室に運んだ。
ベッドに横たえると、俺も彼女の隣に潜り込む。
小さな瑠華を抱きしめて、
不安にさせてごめん。
幸せにしたいのに、俺は彼女を悩ませてばかりだ。
ごめん…
ごめんね。
何度も謝りながらやがて俺も眠りに落ちていった。