Fahrenheit -華氏-
■Memory(記憶)
土曜日だと言うのに道路がすいていたお陰かな。藤岡PAから一時間もしないうちに、碓氷軽井沢インターチェンジを降りることができた。
それから43号に乗って、北上するとゴルフ場やらテニス場やらが目立ってくる。
都心では見慣れない光景に、ちょっと違和感を感じつつも知らない道を通ることにわくわくしていた。
さすが長野県。緑が多くて、空気が澄んでる気がするぜ。
「何で啓の車にはカーナビがないんですか」
ロードマップを広げながら、瑠華がぶつぶつ言っている。
「だって俺知らない道通るの結構好きだもん♪カーナビがあったらつまんないじゃん」
「あなたらしいですね。あ、このまま3km先が軽井沢駅です」
どことなく瑠華の声音も軽そうで、楽しんでくれてることが分かって俺も嬉しい♪
「旧三笠(キュウミカサ)ホテルでしょ?万平(マンペイ)ホテルでお茶して、ペイネ美術館、絵本の森美術館も行けたらいいですね。それから旧軽銀座(キュウカルギンザ)でお買い物して」
なんて予定を立てているところが可愛い。
っていうか……
意外に詳しいのね。
ガイドブックを見てるわけじゃないのに。
瑠華がロードマップから顔を上げてちょっと微笑んだ。
俺は気づいた。
三笠ホテルも、万平ホテルも、美術館も、旧軽銀座も……
19年前に2家族でよく観光していた場所だ。
やっぱり瑠華はあの思い出の―――