Fahrenheit -華氏-
「もっと近づいた方がいいわよ?はいチーズ!」
俺と瑠華は寄り添って、あの小洒落た窓を背景に一枚の写真を撮った。
おばちゃんにお礼を言って、二人でカメラを覗き込む。
初めて撮った二人の写真は
僅かにピンボケしていて、二人して笑った。
「あ、バスルーム。見て、猫あしですよ」
瑠華がわくわくしながらそう言って、俺の手を取る。
そのとき俺は軽い既視感を覚えた。
こんなこと……
前にもあった。
それは近い過去ではなく、うんと昔―――俺がまだ小さかった頃の記憶。
『見て!啓くんっ。シルバニアのお風呂だぁ』
小さい“彼女”は言った。
シルバニアファミリーは当時、その女の子のお気に入りのおもちゃで、俺はよく彼女のコレクションを見せてもらっていた。
「懐かしい。シルバニアに出てきそうなお風呂」
瑠華が微笑ましい何かを見るように、目を細め、頬を緩ませる。
「―――え………?」
俺は目を開いて、瑠華の横顔を見た。
彼女の白い横顔は、小さな女の子の面影を湛えている
―――ように見えた。