Fahrenheit -華氏-
ホテルのロビーにある、壁掛けの客室キーストッカーを見て俺は首を傾げた。
「何で13号室がないの?」
「西洋では13が不吉な数だと言われてるんです。向こうでも…アメリカでもそういうことは多々ありましたよ」
「へぇ。あ、なるほど。13日の金曜日。ジェイソンが来る日だ!」
俺はポンと手を打った。
「まぁそういうことですね」
瑠華はおもしろそうにくすくす笑った。
広いロビーを瑠華はゆっくり散策している。俺は自由に腰を掛けられるカウチに腰を降ろした。
目の前のソファで、女子大生らしき二人組みが俺を見てそわそわ。
「あの…写真お願いしていいですか?」
「あぁ、はい。いいですよ。カメラは?」
「…いえ、そうじゃなくて。あの、あなたと写真撮りたいんです」
「へ?俺!?」
俺はびっくりして目を丸めた。
「さっきからずっと見てたんですけど、モデルの人でしょ?どこの雑誌に載ってるんですか?」
その質問にまたもびっくり。
女に声を掛けられることはあっても、モデルに間違えられたのはこれが初めて。
ふむ
俺はちょっと考えると、さっと手を上げて、
「すみません。プライベートなんで」と断ってみた。
「…残念。やっぱり」
女の子たちは落胆して、そして恥ずかしそうに一礼すると、去っていった。
近くでカシャっとシャッターを切る音がして、俺は顔を上げた。
携帯を構えているその人物を見て、
「すみません。プライベートなんで」と言ってちょっと微笑む。
「ファンなんです」
瑠華は携帯を片手に、いたずらっ子のように笑っていた。